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学長インタビュー

全国各地の注目大学をライターが直接取材。学長の生の声を通して各大学の素顔と魅力をお伝えします。

山梨大学(第30回)

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山梨大学(第30回)

ノーベル賞受賞者を輩出した地方国立大学
〝行動する〟学長がコロナ対策をリード
(週刊文春 2021年1/14号 掲載)
  

島田
眞路学長

 日本に「大学」と名の付く教育機関は実に1,100(短大含む)を超えるが、ノーベル賞受賞者を輩出した大学となると、その数は20にも満たない。山梨大学はその中の1校である
 起源は江戸時代、1795年開所の昌平坂学問所甲府分校「徽典館」までさかのぼる。2015年にノーベル医学・生理学賞を受賞した大村智博士も、徽典館の流れをくむ教育学部の出身だ。
 南アルプスを望む山紫水明の甲府盆地。霊峰富士を仰ぎみるキャンパスの正門脇には、博士の功績を顕彰する「大村智記念学術館」が立つ。徽典館の〝八角三層〟をモチーフに歴史を彷彿させるデザインだ。


「大村博士は母校の学生たちに、『平らな道よりも難しい道を歩いてほしい』とエールを贈ってくださいました。感染症に苦しむ何億人もの命を救った博士に続く、次世代の研究者や各分野で活躍するリーダーを育てたい」
 と意気込むのは同館の建設を発案・推進した島田眞路学長だ。
 山梨大学には日本トップレベルの研究機関がある。「燃料電池ナノ材料研究センター」「クリーンエネルギー研究センター」だ。水素社会実現のカギを握る燃料電池。その材料研究で世界最先端の成果を挙げる。「一流の研究のみを支援するNEDOの委託プロジェクトに4度も採択され、まさに国家的プロジェクトを担っているのです」
 と学長も胸を張る。県もセンターの建物に旧知事公舎を無償貸与するなど全面的にバックアップする。
 さらに、山梨大学は日本で唯一となるワインの研究機関「ワイン科学研究センター」を擁し、なんとワインメーカー社員のための大学院プログラムまで整備されている。
「メーカーとの共同研究を通し、山梨大学ブランドのワインも誕生しました。ここの卒業生が全国各地で日本のワインづくりをリードしています」
(島田学長)

 15年春に就任した島田学長は東大卒の医学博士として東大医学部助教授、山梨大学医学部教授、同附属病院長などを歴任。専門の皮膚科学分野で学会トップを務めながら、日本の研究水準を世界レベルにまで高めた人物だ。第5回国際研究皮膚科学会の日本開催時には会長として成功裏に導いている。
 学長就任後は早速、若手や女性教員の積極登用などを掲げ、大学改革に着手。改革を加速させるため、各界の有識者とも精力的に対話を続ける。島田眞路という「行動する学長」のバックボーンは、少年時代から勉強一本ではなく、ボーイスカウトや野球で汗を流した文武両道の鍛えの日々にあるに違いない。
 山梨大学医学部附属病院長の当時には東日本大震災が起こった。一週間後には医療救護班を編成し、宮城県南三陸町に派遣している。その後、自らも班を率いて現地に乗り込んでいった。

チーム山梨大学病院
コロナの脅威に挑む


 昨年1月25日のことだ。リビングでテレビを見ていた島田学長は、中国・武漢でコロナウイルス専門病院を急ピッチで建設するニュースに釘付けになった。個人防護具をまとって患者に接する医師や看護師の姿も映し出された。脳裏には「SARS」の悪夢が蘇った。「今回は間違いなく日本にもやって来る」と確信。正体不明の敵を迎え撃つ覚悟を決める。

 早速、附属病院の旧病棟をコロナウイルス病床に改築。一月のうちに早くも受け入れの机上訓練が行われた。この初動の決断がダイヤモンド・プリンセス号や県内初の感染患者受け入れにつながっていく。「若者は低リスク」との常識を根底から覆すことになった、20代の髄膜炎・脳炎患者からの陽性検出にも成功した。5月にはドライブスルー検査も開始している。
 ただし、初めからスムーズにことが運んでいったわけではない。スタッフへの感染、院内感染のリスク、決して余裕があるとは言えない人員の配置。涙ながらの話し合いが幾度も持たれた。葛藤の末、島田学長の強力なリーダーシップと医療従事者の強い使命感のもと「チーム山梨大学病院」は動き出した。
 同時に学長は、PCR検査の拡充をマスメディア、インターネット等で訴え続けた。今となればこの主張が正しかったことは疑いようがないが、当時は慎重派に勢いがあり、方々から批判を受けることになった。
 欧米に比べて感染者・死亡者数が少ない現象を「ジャパニーズミラクル」ともてはやす風潮にも、PCR検査数の途上国並みの低さや、人口比で見るとアジア諸国の中ではむしろ死亡者数が多い事実を挙げ、警鐘を鳴らす姿をワイドショーで見た方も多いだろう。これらの経過は学長の近著『コロナ禍で暴かれた日本医療の盲点』(平凡社新書)に詳しい。

 

 本書では今回のコロナ対応で露呈した日本医療の根本問題を、地方大学と附属病院の視点からも綴っている。人材不足と地域医療の崩壊、臨床偏重によるアカデミズム衰退を引き起こした新臨床研修制度。それに続く新専門医制度の大学、医局、学会排除の実態に言及している。さらには国立大学法人化と運営費交付金の削減に焦点を当て、その背景にある中央官庁の縦割り行政の弊害も訴えている。

 地方国立大学を取り巻く状況は厳しいが、嘆く前に行動するのが島田学長である。19年には国内初の国公私立の枠組みを超えたガバナンス連携に踏み切り、山梨県立大学と「大学アライアンスやまなし」を設立。地域アカデミズムの灯を守り抜く協力体制を築いた。
 新型コロナウイルスの感染拡大はいよいよ勢いを増し、長いトンネルの出口は見えないままだ。我が国のコロナ対策をリードする山梨大学と島田学長の「行動」に今後も注目したい。


【大学データ】
住所=山梨県甲府市武田4-4-37
☎=055―252―1111
設立=1949年5月
学生数=4688名
学部=教育学部、医学部、工学部、生命環境学部
https://www.yamanashi.ac.jp

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